名古屋式経営


無借金経営の一形態として名古屋式経営(なごや-しき-けいえい)がある。名古屋を中心とした経済圏で見られる会社経営の方法論で、一般的に「石橋を叩いて渡る」(または「石橋を叩いても渡らない」)とも比喩されるほど、殊更に冒険を嫌う慎重な経営を指す。また、他地域への進出にも慎重で、地元で事業を完結させる形態が過去には多く見られた。同時に他地域からの資本参加や合弁など、殊のほか「よそ者」を嫌う風潮も以前には見られ、関東圏・関西圏などでは広範囲に事業を展開する企業でも名古屋を中心とした経済圏では進出が遅れるなど、地元企業同士の仲間意識が強いのも特徴として見られる。 特に借金を嫌って出来る限り自己資金で事業を行い、利益を内部留保として蓄えて次の事業資金とするなど、万一事業経営に失敗しても会社倒産や、借金の連帯保証などの経営責任が生じない経営形態が特徴として挙げられ、オーナー経営者による同族経営が多いとの特色も見られる。このため、事業の急激な拡大や、濡れ手で粟のような地に足のつかない収益事業には特に慎重で、身の丈(利益剰余金など自己資金)に合せた事業展開を行い、会社の存続(事業の継続)と確実な利益(収益性)を第一に考えた経営方法が、この地方では特に尊ばれている。 「名古屋式経営」の良い面である堅実性を実践している企業としては、世界的に有名な「トヨタ自動車」(以下トヨタと略)が挙げられる。トヨタはその企業規模としては世界的にも稀有な無借金経営で知られており(※単独会計では社債以外の借り入れが無い。ただし連結会計では金融子会社等を含むため有利子負債は規模相応に存在する)、また一大特徴である徹底的に無駄を排した経営方針の源泉は、古くからこの地方に伝わる上記の気質が色濃く反映されている。 なお、昭和末期から平成初期に掛けて、日本中が好況で沸いた「バブル景気」の際でも、この地方の企業では「浮利」を追うような経営があまり行われなかった事もあり、その後の「平成不況」でも大きなダメージを負った企業が少なく、今以て「名古屋式経営」の健在ぶりを世間にアピールしている。 一方で、主に他地域の経済学者から、MM定理(自己資金で事業を行うよりも、借入をしたほうが金利分が経費処理できるので、税制面で有利であること)を出すまでも無く、借金をして事業拡大する事を週刊誌等でたびたび提案されるが、経営状態の良い会社に貸したい側の理屈だとして、初めから相手にしていない。

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